数列で新しい実数を作るで数列に四則演算を定義しましたが、ゼロ因子があって邪魔でした。
そこで、数列群のなかでこのようなゼロ因子を省くことを考えます。
収束する数列で体を作る
数列は、収束する、発散または振動に分けられます。
数列群の要素で収束するものと発散だけを取り出します(振動を取り除きます)。その数列群をS1と置きます。
S1:={{an}| {an}は 収束または発散する数列で、anは実数}
S1はSの部分集合ですから四則演算は定義されています。
無限小に相当する数列があるので、+∞、-∞に発散する数列も含めておく必要があります。
さて、四則演算がS1で閉じているかどうかを調べる必要があります。
和、差、積に関しては実数の極限の性質から閉じていることがわかります。
数列{an}、{bn}が収束し、その極限をa,bで表すと
{an+bn}、{an-bn}、{an*bn}の極限はそれぞれa+b、a-b、a*bです。
発散する場合の数列の組合せで演算しても問題ありません。
収束する数列だけにしても商が定義できない
0に収束する数列を除いても商がうまく行きません。
もうひと工夫必要です。
というのは、たとえば、{bn}={0,1,1,1,1,…}という数列{bn}は1に収束する数列ですが、初項が0なので割り算できません。こういった数列を除く必要があります。
単純にそういった数列を取り除くことはできません。
なぜかというと、{cn}={1,2,2,2,…},{dn}={1,1,1,1,…}という数列の差をとると、{bn}ができるからです。
S1からこの{bn}を取り除いてしまうと、差の演算がS1で閉じなくなってしまいます。
ここからだんだん話が怪しくなってきますが、なんとかこれを取り除く方法を考えます。
有限個の違いは無視する
単純に取り除けないので、{bn}={0,1,1,1,1,…}は、{b’n}={1,1,1,1,1,…}と同一視することを考えます。
今、2≦nとすると、bn=b’nです。
このように、二つの数列{xn}と{yn}に対して、
ある自然数N(先の例では2)が存在して、
N≦nであるnについてxn=ynとなるとき
{xn}={yn}
とみなすのです。
有限個の違いは無視して同じ項である二つの数列は同じ(同値)と考えます。
有限個を無視するという操作が同値関係であることを示します。
- 反射律 {xn}~{xn}
- 対象律 {xn}~{yn} ならば {yn}~{xn}
- 推移律 {xn}~{yn} かつ {yn}~{zn} ならば {xn}~{zn}
どれも簡単に示せますので証明は割愛します。
分数で3/2と6/4は数字が違っていますが同じとみなしているのと同じ考え方です。
分数では約分という操作をしますが、この数列では有限個の置き換えは自由にしてよいということになります。
この同値関係で作ったS1の商集合をS2とします。
このS2が新しい実数になっているかを検証するわけです。
S2=S1/~
同値関係の記号として≡や~などが使われますが、分数などと同じように=を使います。
例
{bn}={b’n}
{0,1,1,1,1,…}={1,1,1,1,1,…}
こんな感じです。有限個は無視して比較して一致していたら同じ数列とみなします。
S2で演算が閉じているか
いちおう確認する必要があります。
特に割り算については但し書きが必要でしょう。
0以外の値に収束する数列は、有限個を無視するとその項は0ではありません。
無限の項が0になっている数列は0に収束する数列か、振動している数列です。
したがって、割り算すうとき、もし割る方の数列に0の項を含んでいたら、それを1に置き換えて割り算します。
これによって割り算が0に収束する数列以外で定義できます。
しかーし、まだS2は体になっていません。
もう、ここから修羅場です。一筋縄ではいかないのです。ここまではだれでも考えてることでしょう。
そこでさらに次の一手を下します。さらに泥沼に踏み込んだ気がします。地に足がつくでしょうか。
無限個の項が0になっている数列は0とするしかない
とうとう、禁断の境地にはいってきました。ここで思い切って0に関する例外措置を作ります。
数列の中に無限に0が入っている場合は0とみなします。
これによって、0に該当する数列を除けば、その数列は0以外の項からなる数列になるはずです。
これによって、S2の同値関係をさらにゆるめて次にようにしたS3を考えるのです。
無限に0の項を含む数列は{0}と同じ。
これは言い換えると、{a},{b}が同じであるとは、有限個を除いてではなく、無限個の項で一致していれば同じとみなすということです。
上で定義した有限個を無視するという場合は、自然数Nの存在を仮定しますが、それを取り除いてしまいます。
二つの数列{a},{b}にたいして、例えば偶数項だけでも一致していれば、それらは同じとみなされます。
ここまできたら、こうせざるを得ません。でないと0以外の0因子ができてしまうからです。
修正した同値関係
二つの数列{xn}と{yn}に対して、
xn=ynとなるnの集合が無限集合であるとき
{xn}={yn}
とみなす。
さて、これでこの商で体ができるのでしょうか。
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S1は和,差,積について閉じているとありますが,閉じていないのではないでしょうか.
実際,a_n = (-1)^n / n と b_n = n はS1の元ですが,
その積 a_n b_n = (-1)^n は振動するのでS1に属していません.
差についても発散列同士でさえ{n + (-1)^n}と{n}の差はS1の元ではありません.
おはずかしい限りです。
おっしゃる通りです。
収束する数列除いているのでS1は和、差、積についても閉じていません。
貴重なご指摘ありがとうございました。
※言い訳ですが、たぶん、演算が定義できる事と閉じていることを混同して考えていたのだと思います。
「和、差、積についても閉じている」→「和、差、積について演算が定義できる」
もっとも、S1は閉じていないので演算も定義できず、これでも誤りなのですが・・・
※実はこの記事は、(無限を含む)新しい数を考えても失敗の連続であることを示す意図で作成しています。
私自身はあまり詳しくないのですが,超準解析といわれる分野が近しい気がします.
ご存知かもしれませんが,以下のpdfはわかりやすく読みやすいため参考になるかもしれません.
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kenkyubu/kokai-koza/H29-isono.pdf
コメントと、資料の紹介ありがとうございます。
私もそれほど詳しいわけではありませんが、無限大を数として扱っている最も有名なのはこの超準解析だと思います。
ただ、それほど浸透はしていないようですね。
おそらく、ウルトラフィルターという概念が抽象的すぎ、そして全然具体的でないのがその理由なのではないかと思います。
フィルターの作り方で二つの数列が同じになったり異なったりするわけで、具体的な演算をするのが難しく、実用に向いていない数かなと思います。
このアイデアは素晴らしいと思います。
しかも、このアイデアは無限の取り扱いが超絶難しいことを示す働きも行ってくれました。
ただ、私は、このアプローチとは別の方法で無限を取り扱うことを考えています。