線形代数(行列)を勉強していて、最初に躓くポイントは、ランクじゃないでしょうか。
線形代数の最初の命題は定義からすぐに確認できることばかりが続き、ランクの定義も自然にされるのですが、転置行列のランクも同じだというのがちょっと自明ではなく、証明もかなりてこずります。行列を連立方程式と関連付けてとらえているとランクでつまずきます。
特に、正方行列ではない行列(長方形行列)について解析するときにはランク計算を強力に使うことが多いです。行列を線形変換としてとらえなければ、なかなかとっつきにくいランク計算について、の問題です。
例えば、\(X^2=O\)となる行列\(X\)について調べるときに、ランクの性質が役に立ちます。
行列\( A, B, C \) が \( AB=C \) という積の形であるとき、それらのランク(階数)の間には線形代数学における重要な不等式がいくつか成立します。
以下に、一般の場合と、\( C \) が零行列の場合に分けて解説します。
1. 一般的な場合(シルベスターの階数不等式など)
行列の積 \( AB=C \) において、\( C \) のランクは元の行列 \( A \) や \( B \) のランクを超えることはありません。
階数の基本不等式
\(\mathrm{rank}(C) \le \min(\mathrm{rank}(A), \mathrm{rank}(B))\)
これは、「行列の積によって作られる空間の次元は、元の行列の列空間や行空間の次元を大きくすることはない」という性質を反映しています。
シルベスターの階数不等式 (Sylvester’s rank inequality)
\( A\) が \( m \times n \)、\( B \) が \( n \times p \) の行列であるとき、下限についても以下の関係が成り立ちます。
\( \mathrm{rank}(A) + \mathrm{rank}(B) – n \le \mathrm{rank}(AB) \)
2. \(C \) が零行列 (\( AB = O \)) の場合
\( AB = O \) という関係は、ランクに関して非常に強力な制約を課します。
ランクの和の関係
\(\mathrm{rank}(A) + \mathrm{rank}(B) \le n \)
ここで \( n \) は \( A \) の列数(および \( B \) の行数)です。
なぜこの関係が成り立つのか
この関係は「像(Image)」と「核(Kernel)」の関係から直感的に理解できます。
\( AB = O \) ということは、行列 \( B \) の各列ベクトル \( \mathbf{b}_j \) に対して \( A\mathbf{b}_j = \mathbf{0} \) となることを意味します。これは、「\( B \) の列空間(像)が \( A \) の核(カーネル)に含まれている」ことを示しています。
\(\mathrm{Im}(B) \subset \mathrm{Ker}(A)\)
次元の関係で見ると:
\( \dim(\mathrm{Im}(B)) = \mathrm{rank}(B) \)
\( \dim(\mathrm{Ker}(A)) = n – \mathrm{rank}(A) \)
(次元定理より)包含関係があるため、次元についても以下の不等式が成立します。
\( \mathrm{rank}(B) \le n – \mathrm{rank}(A) \)より、
\( \mathrm{rank}(A) + \mathrm{rank}(B) \le n \)
まとめ
- 一般の積: \( \mathrm{rank}(AB) \) は、\( A \) のランクと \( B \) のランクのどちらか小さい方以下になる。
- 零行列の場合: \( A \) のランクと \( B \) のランクの合計は、中間サイズ \( n \) 以下になる。
例えば、\( 3 \times 3 \) の行列で \( \mathrm{rank}(A)=2 \) かつ \( AB=O \) であれば、\( B \) のランクは最大でも \( 1 \) でなければならない、といったことがわかります。