数列の収束には、自明な収束と、そうでない収束(狭義の収束)の2種類があります。
これらは明確に区別されますが、どちらもひとくくりに収束と呼ばれるため、場合によっては混乱する場合があります。
自明な収束
「自明な収束」の定義
数列\(\{a_n\}\)が\(a\)に「自明な収束をする」とは、「ある自然数\(N\)が存在して、\(N<n\)である自然数nに対して、常に\(a_n=a\)が成立する」時をいいます。
また、この場合、数列\(\{a_n\}\)は、「\(a\)に到達する」といいます。
「自明な収束」をする数列の例
自明な収束の例は、\(b_n=1\)です。
この数列は、全ての項が1である数列です。
このような数列は、自明な収束を行い、その収束値は1となります。
数列\(b_n\)は1に到達します(到達しています)。
自明でない収束(狭義の収束)
「自明でない収束」の定義
ある値に収束する数列\(\{a_n\}\)が「自明でない収束をする」とは、数列\(\{a_n\}\)が自明な収束をしない場合をいいます。
すなわち、収束する数列は、自明な収束をする数列と、自明でない収束を行う数列のいずれかになります。
「自明でない収束」をする数列は、「収束値(極限値)に到達しない」とも言います。
「自明でない収束」をする数列の例
無理数に自明でない収束をする数列の例
\(c_1=1.4,\\ c_2=1.41,\\ c_3=1.414,\\ c_4=1.4142,\\ \cdots,\\ c_n=\sqrt{2}の小数第n位まで,\\ \cdots\)
この数列\(\{c_n\}\)は、\(\sqrt{2}\)に収束します。
どの\(c_n\)も\(\sqrt{2}\)に等しくありませんから、この数列は自明でない収束です。
また、どの\(c_n\)も有理数であることに注意してください。
有理数からなる数列が無理数に収束する場合、その数列は自明でない収束と言えます。
この数列\(c_n\)は収束値\(\sqrt{2}\)に到達しません。
有理数に自明でない収束をする数列の例
\(d_1=0.3,\\ d_2=0.33,\\ d_3=0.333,\\ \cdots,\\ d_n=\ 1/3の小数第n位まで,\\ \cdots\)
この数列\(\{d_n\}\)は、1/3に収束します。
どの\(d_n\)も\(\frac{1}{3}\)に等しくありませんから、この数列は自明でない収束です。
自明でない収束ですから、この数列\(d_n\)は収束値1/3に到達しません。
整数に自明でない収束をする数列の例
\(e_1=0.9,\\ e_2=0.99,\\ e_3=0.999,\\ \cdots,\\ e_n=\ \displaystyle \frac{10^n-1}{10^n},\\ \cdots\)
この数列\(\{e_n\}\)は、1に収束します。
どの\(e_n\)も1に等しくありませんから、この数列は自明でない収束です。
そして、この数列\(e_n\)は1に到達しません。永遠にです。
有理数でできた数列
各項が有理数である数列を有理数列と言います。
有理数列の中で収束するものだけを考えます。
有理数列の収束値は、有理数か無理数に分類できます。
自明に収束する有理数列は、収束値が有理数ですから、待遇を考えると、無理数に収束する有理数列は、自明でない収束をする数列と言えます。
全ての実数は、ある有理数列の収束値となっています。
なぜなら、ある区間の中にある実数は、その区間の幅を挟み撃ちと呼ばれる手法で追い込むことができるからです。
ある見方では、実数のほとんどは無理数と見做せます。
有理数列をつかって実数を定義する方法がありますが、そこで使われる有理数列のほとんどが、自明でない収束の数列であるとみなせます。つまり自明な収束である有理数列は、有理数列の中では例外的な数列と言えます。
まとめ
収束する数列には、自明な収束と、自明でない収束(狭義の収束)の二つに分類できることを示しました。
また、それぞれの収束の例を示しました。
実数が、自明でない収束と密接な関係にあることを示しました。
有理数列は無理数に到達することは決してあり得ませんが、有理数であっても、到達しない有理数列の収束値になることはあり得ます。