問題(2006年筑波大前期理系第2問)

\(a \ge b \gt 0, x \ge 0\) とし、\(n\)は自然数とする。次の不等式を示せ。
(1) \(\displaystyle 0 \le e^x-(1+x) \le \frac{x^2 e^x}{2} \)
(2) \(\displaystyle a^n-b^n \le n(a-b)a^{n-1}\)
(3) \(\displaystyle 0 \le e^x-\left(1+\frac{x}{n} \right)^n \le \frac{x^2 e^x}{2n} \)

問題の特徴

指数関数\(e^x\)を含んだ不等式の問題で、かなり難しいです。数学の基礎知識がある人でも、限られた時間の中ではひらめきがなく解けない場合があると思います。

不等式の問題は決まったパターンで解けない場合も多く、筑波大学の問題はこのような不等式の難問がよくでますね。丁寧に解答をかいてる時間を削減してでも、問題を解くことに集中した方がよい問題です。

(1)と(2)の結果を用いて(3)の不等式を示すわけですが、(2)をどう使えばよいのか、なかなかひらめきません。

(3)の式で\(n=1\)とすると(1)の不等式が得られるため、数学的帰納法で証明するのかと思ってしまいますが、このやり方だとうまくいきません。ここではまってしまう可能性があります。

解答

順番に不等式を示していきます。(1)と(3)は二つの不等式からできていますから、合計5つの不等式を示す事が必要です。

(1) \(0 \le e^x-(1+x) \le \frac{x^2 e^x}{2} \)

\(f(x)=e^x-(1+x)\)と置くと、\(f(0)=0\)で、\(0 \le x\)の時\(f'(x)=e^x-1\ge 0\)より、\(f(x)\)は単調増加関数である。

よって、\(\displaystyle 0 \le e^x-(1+x)\)が示された。

次に、\(\displaystyle g(x)=\frac{x^2 e^x}{2}-(e^x-(1+x))\)と置くと、

\(0 \le x\)の時を考えると、

\(g(0)=0\)

\(\displaystyle g'(x)=\frac{2xe^x+x^2e^x}{2}-(e^x-1)\)

\(g'(0)=0\)

\(\displaystyle {{g’}’}(x)=\frac{2e^x+2xe^x+2xe^x+x^2e^x}{2}-e^x \ge 0\)

\(g'(x)\)は単調増加であるので、\(g'(x)\ge0\)

これより、\(g(x)\ge 0\)がわかる。

よって、\(\displaystyle e^x-(1+x) \le \frac{x^2 e^x}{2} \)

(2) \(a^n-b^n \le n(a-b)a^{n-1}\)

\(a=b\)の時、与えられた不等式は左辺も右辺も\(0\)に等しくなるので成立している。

\(a≠b\)の時、

\(f(x)=x^n\)とおくと、\(f(x)\)は、\(b \le x \le a\)で微分可能であるから、平均値の定理より、

\(\displaystyle \frac{f(a)-f(b)}{a-b}=f'(c)\)となる実数cが\(b ^le c \le a\)で存在する。

\(f(x)\)は単調増加関数であるので、\(nc^{n-1} \le na^{n-1}\)である。

よって、

\(\displaystyle \frac{a^n-b^n}{a-b}=nc^{n-1}\le n a^{n-1}\)

(3) \(0 \le e^x-\left(1+\frac{x}{n} \right)^n \le \frac{x^2 e^x}{2n} \)

(1)の不等式の\(x\)に\(\frac{x}{n} \ge 0\)を適用すると、

\(\displaystyle 0 \le e^{\frac{x}{n}} – \left(1+\frac{x}{n}\right) \le \frac{1}{2}\left(\frac{x}{n}\right)^2 e^{\frac{x}{n}}\)である。この式を(4)とすると

(4)の左側の不等式より得られる

\(\displaystyle 0<\left(1+\frac{x}{n}\right) \le e^{\frac{x}{n}} \)の両辺を\(n\)乗することで、

\(\displaystyle \left(1+\frac{x}{n}\right)^n \le e^{x} \)が得られる。

\(\displaystyle a=e^{\frac{x}{n}},b= 1+\frac{x}{n}\)とおくと、\(a\ge b \ge 0\)であるから、(2)の不等式を適用すると、

\(\left(e^{\frac{x}{n}}\right)^n- \left(1+\frac{x}{n}\right)^n
\le n \left( e^{\frac{x}{n}} – \left(1+\frac{x}{n}\right) \right) {\left(e^{\frac{x}{n}}\right) }^{n-1}\)

(4)の右側の不等式を使うと

(上記右辺)\( \displaystyle \le n \left( \frac{1}{2} {\left(\frac{x}{n}\right)}^2 e^{x/n} \right) {\left(e^{\frac{x}{n}}\right) }^{n-1}\)

\(\displaystyle = \frac{1}{2} \frac{x^2}{n} e^x\)

2006年筑波大前期理系第2問の考察

(3)の考察

(3)は、\(x\)に\(\frac{x}{n}\)を適用することが思いつかなければ、困難だと思います。

この発想は、そう浮かびません。

いろいろな不等式の証明がありますが、このタイプ(\(x\)を\(x/n\)に置き換える)で示す不等式は珍しいです。

式の特徴をとらえ、また式計算が素早くできなければなかなかひらめかない方法だと思います。

\(\displaystyle e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots\)という有名な級数を知っていていると、

\(\displaystyle e^x \gt 1+x+\frac{x^2}{2!}\)を利用しようと思うところですが、示すべき不等式の\(x^2e^x\)の処理にうまく活かせず、このやり方にこだわっているとドツボにはまります。

(2)の考察

平均値の定理を使うと、スムーズに証明できます。

平均値の定理はなかなか出番がないですが、このような不等式の証明で威力を発揮することがあります。

この問題では、\(n\)を自然数としていますので、数学的帰納法や等比数列の公式を使ってもこの不等式は証明できます。

\(\displaystyle \frac{1-x^n}{1-x}=1+x+x^2+\cdots+x^{n-1}\)
は整数論でもよくでてくる等式です。

この等式に\(x=\frac{b}{a}\)を代入すると、(2)の式が示せます。

\(a^2-b^2=(a-b)(a+b)\)

\(a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)\)

\(a^4-b^4=(a-b)(a^3+a^2b+ab^2+b^3)\)

\(a^5-b^5=(a-b)(a^4+a^3b+a^2b^2+ab^3+b^4)\)

のような因数分解でも覚えておくとなにかと便利です。

(1)の考察

単調増加であることを示すことで不等式を証明することは、常套手段ですが、このように何度も微分していく場合はあまりないかもしれません。

1度でだめらな、2度、3度と微分し、単調増加関数であることが示せる場合があります。

ただ、値が負になる場合があると、この方法は使えませんので闇雲に微分していけばいよいというわけではありません。