ここで言ってる存在定理とは
「存在することを示す定理」
の事です。
当然ここでは、数学での話になります。
難しい整数論でも、この存在定理はよくでてきますが、
ここでは、その定理を証明するときに使われる鳩の巣原理について述べていきます。
シンプルながらも、他で代用することがなかなかできない強力な論理手法です。
整数論の証明で躓いたら、この鳩の巣原理が使えないかちょっと思い出してくれるとうれしいです。
ぜひこの鳩の巣原理を使いまくってください。
存在定理の証明
存在定理の証明方法ですが、
最も簡単な方法は、
「はい、コレです!」と
存在するそのものを提示することです。
これは、数学でなくてもよく使われます。
例えば、「日本にウイルス感染患者がいる(存在する)」
事を示すためには、実際にウイルス検査結果が陽性の感染患者を一人示せば十分です。
もちろん、その示した患者が本当に
- 日本に在住しているのか?
- ウイルスに感染しているのか?
を別に示しておく必要はありますが、
その患者の存在自体が最大の根拠となります。
さて、検査結果が陽性である特定の患者を具体的に示さなくても、
- 武漢の渡航歴がある人の集団があり、
- ウイリス感染患者に濃厚接触している人がおり、
- 日本に住んでる人がいて
- 発熱、肺炎の症状があり
- ・・・
とウイルス感染の必要条件を満たす人がいることの確からしさを間接的でも示せばそれも存在証明になります。
数学の世界でも、人ではありませんが、
なにかの条件を満たすモノが、
具体的に示せなくても、「間違いなく存在する!」
という事が示せる場合があります。
つまり、存在だけを証明する定理というものがあります。
有名なのは、代数学の基本定理といわれてる、方程式の解の存在定理です。
2次方程式の解の存在は、2次方程式の解の公式から、
解の存在を示すことができますが、
5次方程式の場合にはこの方法が使えません。
5次方程式の解の公式が代数的に作れないのはよく知られたことです。
しかしながら5次方程式に複素数の範囲で解が存在することは証明されています。
この証明は、けっこう難しいです。
なにが言いたいのかというと、存在定理の証明は、めちゃくちゃ難しい場合があるということです。
存在定理は主張している内容は簡単であっても、その証明となると難しい事がよくあるのです。
なんらかの問題を解く、解を得る前段階として、
存在しているのかどうかという問題が立ちはだかっています。
存在が保証されていても、解けない(示せない)場合はめずらしくありません。
存在が示せたということ自体がものすごい発見(大定理)であることはよくあります。
整数論で大活躍する鳩ノ巣原理
さて、先程は、代数学の基本定理(解の存在定理)を例に示しましたが、
整数論の中でもいろいろな存在定理があります。
解を具体的に指し示すことができないけど、存在することが証明されている定理のことです。
その証明方法(テクニック)はいろいろありますが、
なんといっても大活躍するのが鳩ノ巣原理と呼ばれる方法です。
鳩ノ巣原理とは、ごくごく当たり前の原理なのですが、
この原理を使うと、他の証明方法では難しい定理もあっさりと証明できてしまうことがあります。
非常に強力な原理です。
強力というのは、別の意味もあります。
つまり、他の方法で証明しようとすると、「甚だ困難になってしまう」、「代わりがない」という意味です。
その鳩ノ巣原理ですが、どういう内容か簡単に例で説明すると、
6羽の鳩が5個しかない鳩ノ巣に戻った場合、少なくとも2羽以上の鳩が入っている鳩ノ巣が存在する
という原理です。
存在することを示す原理になっています。
鳩ノ巣原理についての詳細は
を参照してください。
これは、
ディリクレの箱入れ原理とか、部屋割原理とも呼ばれています。
椅子取りゲームは、この原理を応用したゲームとして有名です。
また、タンスの靴下原理も同じです。
タンスの靴下原理は、ネットで中身を検索してもすぐに見つからないかもしれないので、ここで紹介しておきます。
あまり知られていないかもしれませんが、私は、あるクイズ問題に載っていたのを覚えていますから、そこそこはよく例にでる原理です。
まあ、簡単な話なのです。
タンスの引き出しに、白色と黒色の色だけ異なる靴下がバラバラ(左右組になっていないと考えて下さい)に沢山はいっている状態を考えます。
この引き出しから、同じ色の組み合わせの靴下を抜き取るためには、3個の靴下をとればよいですよね。
色の組み合わせについて考えなくても結論をだせてしまう原理です。
いま、いろは白と黒の2色としましたが、赤、白、青の3色の靴下に対しても、応用できます。
この原理も、鳩ノ巣原理と同じといえます。
ここでの注目点は、白がそろうのか、黒がそろうのか、色について言及しなくても、必ず同じ色の組ができるという点です。
これを、
偶数を白の靴下、奇数を黒の靴下として考えてみると、数学の証明にも応用できます。
適当な整数を3つ選ぶと、偶数同士、もしくは奇数同士の組を選ぶことが可能であることがこの原理から示せます。
これで、「適当に3つの整数を選んで差をとると、かならず偶数になるものが存在する」という命題が証明できたことになります。
さらに応用すれば、「相異なる整数を10 個適当にもってくると、その中のある数の組は、差が9の倍数になっている」ことの証明にも使えます。
10個の整数をもってくるパターンなんて、むちゃくちゃ組み合わせ数が多いと思いますが、
そんな組み合わせのパターンを考えなくても、鳩の巣原理を使えばあっさりと証明できるところが、
面白いと思いませんか。
実際、難しいといわれてる整数論には、この原理であっさりと証明された定理がたくさんあります。
ミンコフスキーの定理
これまでは、単純ですぐにわかるような話が続きました。
ここまでの駄文に付き合ってくださりありがとうございます。
最後に、鳩ノ巣原理を使った定理がいかに強力かを示す例としてミンコフスキーの定理を挙げます。
この定理は、鳩ノ巣原理を使って証明されます。
そして、この定理をつかって、
代数体の判別式に関する定理が証明されます。
有理数体以外の代数体の判別式をDとすると、
|D|>1
である。
(ちなみに有理数体の判別式は1)
この定理の意味自体を説明するのも難しいのですが、その証明となるとそれ以上に難しいです。
定理の内容をみても、鳩ノ巣がどこで使われるのか、その関連すらさっぱりわからない定理です。
鳩ノ巣原理を使わなくても証明できそうな内容であるのですが、
高木先生がいうには、それがそうでもないらしいのです。
話が、代数体とか判別式とか、突然難しい話に飛躍してしまいましたが、
鳩ノ巣原理の強力さを示す例として強烈に印象に残っている例でしたので、
掲載しました。
鳩の巣原理を使わないでこの代数体の判別式の定理が証明できたら、それはかなりの大発見、その発見によって整数論がさらに発展することになると思います。
ちょっとネタとして、頭の片隅にでもおいておいてもらえたらうれしいです。