まずは、例をだして、このタイトルの説明をしていきます。
平均の平均は平均ではない
A地点とB地点は、120km離れた場所にあるとします。
A地点から出発してB地点へ到達するのに2時間かかりました。
帰りは、3時間かかりました。
さて、ここで行きと帰りの平均速度(時速)を計算してみます。
行きの平均速度は、
120km/2時間=60km/h
となりますね。
帰りの平均速度は、
120km/3時間=40km/h
となります。
こういった状況を考えておいてください。
それでは、ここで問題です。
問題
田中さんが、隣町へ車で運転しました。
行きの平均速度は時速60キロ、帰りの平均速度は時速40キロでした。
行きと帰りをあわせた往復の平均速度は時速何キロでしょうか?
ここで、平均の平均が登場します。
60と40の平均を求めると、
\(\displaystyle \frac{60+40}{2}=50\)
ですね。
これが、平均の平均というモノです。
さて、田中さんが隣町へ往復した
平均速度は時速50キロ、
これは正しいでしょうか?
違いますね!
往復の平均速度を計算すると、
往復の距離は、120+120=240キロ、
往復にかかった時間は、5時間ですから、
\(\displaystyle \frac{240}{5}=48\)
往復の平均速度は、時速48キロ。
これが正解です。
50ではありません。
平均速度を「平均の平均」で求めると、違った答え(時速50キロ)になっていましたから、
「平均の平均は平均でない」というのです。
この例に従って、もう少し正確に言い直すと、
「平均速度の平均は平均速度にはならない。」
となります。
平均の平均は平均である
相加平均、相乗平均といった用語を聞いたことがあるでしょうか?
通常、平均と言った場合、それは相加平均のことを指していますが、平均にはいろいろな種類があります。
その中の一つに調和平均と呼ばれる平均のとり方があります。
調和平均とは
調和平均とは、「逆数の平均の逆数」のことです。
例として、60と40の調和平均を求めてみます。
まず、それぞれの逆数をとって、
\(\displaystyle \frac{1}{60}\),\(\displaystyle \frac{1}{40}\)
これら2つの数の平均を求めると、
\(\displaystyle \frac{1/60+1/40}{2}=\frac{5/120}{2}=\frac{5}{240}\)
となります。
計算の過程がわかるように、ここではわざと約分していません。
この逆数を求めると、
\(\displaystyle \frac{240}{5}=48\)
となりますから、
60と40の調和平均は、48です。
ふたたび「平均の平均は平均である」について
48という数値、先程求めた往復の平均時速と同じ値ですね。
そうなんです、往復の平均時速は、行きの平均時速と帰りの平均時速の調和平均と同じ値になります。
「平均の(調和)平均は平均である」
といった例を示すことができました。
もっと一般的に、
「『行きの平均時速』と「帰りの平均時速』の調和平均は、『往復の平均時速』である。」
ということができて、この事は証明できます。
どうして、往復の平均が行きと帰りの調和平均で算出されるのかは、
計算過程をみればわかるのですが、これが成立しているポイントは、
A地点からB地点への行きの距離と帰りの距離が同じだからなんですね。
ここがミソです。
往復の平均の事を「全体の平均」と言った言い方をすることがありますが、
いつも全体の平均が調和平均で求められるとは限りません。
そこには注意しておいてください。
平均について
相加平均でもなく、相乗平均でもない調和平均について説明しましたが、この他にも平均のとり方は山のようにあります。
多くの平均には固有の名前はついていません。
ただ、重み付き平均などはどこかで聞いたことがあるかと思います。
いろいろな種類の平均の関係は、不等式と大きく関係しています。
有名なのは、相乗平均≦相加平均といった関係式(不等式)ですが、平均の性質を使って(恒等)不等式が成立することを証明することはよくあります。
不等式の名著、「不等式(G.H.ハーディ、J.E.リトルウッド、G.ポーヤ)」というテキストがあります。
このテキストではいろいろな不等式が紹介されていますが、その多くは平均に関する不等式です。
逆にいうと、平均を考えることでいろいろな不等式が生まれてきます。