ゼロというのは、数字の中でも、最も特別な存在と言ってよいでしょう。
ゼロにはいろいろな性質がありますが、その中で特異なものが、ゼロで割り算することは許されていないということです。
9÷0問題
かつて小学生向けに、9÷0だとか、8÷0という問題が出題されて話題になったことがあります。
「0は、なにを掛けても割っても0」だと教える先生がいるとか。
なので、例えば、8÷0に対しては0と解答するのが正解らしいです(数学的には誤りと言えますが)。
「どんな数でも0を掛けると0になる」という性質をちょっと勘違いして割り算にも適用したのかなと思いますが、数学の世界では、ゼロで割ることは許されないのです。
0で割ってはいけない理由
なぜ、ゼロで割ってはいけないのか、簡単にいうと、困ることが多くでてくるからということです。
いろいろな数の計算がくるってきます。
例えば、普通の数は、2で割った数に2を掛けると元に戻ります。
100÷2の答えを2倍すると、また100に戻りますね。
一般的に式で書くと、\(x÷2×2=x\)が成立しています。
今、2で割った場合を考えましたが、3で割った場合でも3倍するともとに戻ります。
同様に、4で割って4倍するともとに戻ります。
割り算と掛け算は、このようなもとに戻るという意味で逆の計算と考えることができます。
それじゃ、0で割って0を掛けると元に戻るのかというと、これがちょっと疑問を呈するわけです。
仮に、8を0で割った答えを0とします。この答の0を0倍すると0です。
8に戻りませんね。
8を0で割った答えを8とします。この答に0を掛けると0になって元の8に戻りません。
実は、8を0で割った答えをどんな数にしても、それに0を掛けると0となってしまうので、ぜったに8に戻ることはないのです。
算数の場合は0で割ってもよい?
算数は、数の計算に重点が置かれていますから、0で割る場合は、(答えがないので)便宜上答えを0とすると決めてしまっても、それほど問題はないのかもしれません。
私も、ゼロで割ることができないと知ったのは中学生になってからです。
中学生になると、文字式というのを習います。この文字式においては、割る数が0かそうでないのか相当意識する必要があります。
文字式とは、数字の代わりに、\(a,b,c,x,y,z\)のような文字(主にアルファベットやギリシャ文字)を使って計算する式の事です。
文字式を扱わない算数の場合は、0で割る必然はまずないと考えられるので、「解なし」と答える代わりに、「0」と答える約束事でもとりわけ、問題はないと思います。
答えをもとめるよりも、ゼロで割るとはどういうことなのかを自由に考えるほうが重要なのではないでしょうか。
8÷0の答えを0とするのか、1にするのか、8にするのか、それとも計算不能だとか、解なしのような解答にするのか、どれか一つを正解として決めることにそれほど労力を費やす必要は感じません。
ゼロで割るということは、2や3で割ることとなにか違いがあるということに気が付く事に学びがあります。
ゼロで割ることのできない数学的な理由
実は、数学ではあまり割り算という演算は登場しません。割り算がよく使われるのは、算数の場合です。
数学で、割り算は、逆数の掛け算に置き換えて考えます。
「ゼロで割ることができない」という事は、「ゼロには逆数が存在しない」という意味です。
逆数があったとすると、いろいろと論理が破綻してしまいます。
もしくは、\(0=1\)という、なんでもありの世界になります。
実は見落とされがちですが、ゼロに逆数(逆元)が存在しないというのは誤りです。\(0\)ただ一つからなる体は0であっても逆元をもち、それは0です。すなわち0の逆数が存在する数の体系はあります(つまらない例ですが)。このつまらない例では\(0=1\)です。この記事ではこのつまらない例を除いて考えます。
数字の場合は、その数字が0なのか0でないのか数字自体から判別できますが、文字の場合は、0の場合もあれば、0でない場合もあります。
なので、ゼロで割ってはいけないというのを本当に注意深く考えなければならないのは、文字式の場合なのです。
有名な2次方程式の解の公式も、よくみると、\(a≠0\)という断り書きがされています。
\(\displaystyle \frac{-b±\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\)
\(a=0\)の場合に、この式は意味を持ちません。
ゼロが逆元を持たない理由
ゼロの逆元とは、\(0x=x0=1\)を満たす\(x\)の事です。
ここで、1は単位元です。
ゼロには、どんな数をかけても答えは0になるので、\(0x=1\)となるような\(x\)は存在しません。
したがって、ゼロは逆元を持ちません。
ということは、ゼロは割り算ができないということになります。
なぜ、ゼロはどんな数を掛けても答えがゼロになってしまうのかというと、それは分配法則を満たすためです。
分配法則とは、
\((a+b)c=ac+bc\)の式で表される法則です。
ここで\(a,b\)が\(0\)の場合を考えると、\(a+b=0\)ですから左辺は\(0c\)となります。
分配法則が成立していると、\(0c=0c+0c\)という式が成立していなければなりません。
これから任意の\(c\)に対して、\(0c=0\)が導かれます。
結論
これまでの話をまとめると
- 割り算は逆数を掛ける演算と定義されている。
- ゼロには逆数がない。
- ゼロで割り算することができない。
- ゼロに逆数がないのは、分配法則を満たすため。
となります。
ゼロで割ることを許すためには、少なくとも、
- 割り算の定義を変える
- 分配法則の定義を変える
について見直す必要があります。
実は、これらを見直しした、輪(Wheel)という数の体系が考えられています。
輪では、すべての数が逆数を持ちます。そして、分配法則が通常の分配法則とは違った形で定義されています。
ゼロも含め全ての数が逆数を持つようにすると何が起きるのか、輪の理論から学べます。
輪については、「0の割り算から生まれた輪(Wheel)について」を参照してください。