まずは、次の漸化式の問題の答えを考えてください。

問題

次の数列の極限値を求めよ。

\( a_1=1, a_{n+1}=\sqrt{a_n+2} \)

 

 

問題の解説

\( a_{n+1}=\sqrt{a_n+2} \)

のように、\(a_{n+1}\)を\(a_n\)の式で表した式を漸化式といいます。

漸化式は、初項\(a_1\)と与えることで、ある数列を表すことができます。

 

たとえば、さきほどの問題の初項は1に設定されています。

初項\(a_1=1\)と漸化式に代入する\(a_2\)が求められます。

この場合、\(a_2=\sqrt{1+2}=\sqrt{3}\)となります。

こんどは、この\(a_2\)を使って\(a_3\)を計算し、求めることができます。

 

\(a_3=\sqrt{a_2+2}=\sqrt{\sqrt{3}+2}\)

ルートの中にルートがあって、複雑な値になってしまいましたが、

この\(a_3\)を使えば、\(a_4\)もわかります。

 

この操作を繰り返していくと、

\(a_{100}\)、果ては、\(a_{1000}\)なども

求められます。

 

つまり、初項と漸化式から、ある数列が決まります。

 

 

漸化式で与えられた数列の極限値

「漸化式で与えられた数列の極限値」というのは、

与えられた初項と漸化式から得られる数列が収束する場合に近づいていく数のことです。

 

極限値の事を単に極限ということもあります。

 

 

ここで注意したいのは、数列は必ずしも極限値を持つとは限らないということです。

 

 

極限値を持たない数列の代表的な例は、無限大に発散する数列です。

その他、振動する数列も極限値を持つとは言いません。

 

ある意味では、極限値を持たない数列のほうが、極限値を持つ数列よりもはるかに多いといえますが、

研究の対象は専ら極限値がある数列です。

 

 

ところで、極限値があるとわかっていても、それがどのような値なのかわからないこともあります。

 

一般的な数列で、収束値を求めることは簡単ではありません。

 

収束値を調べるもっとも単純な方法は、数列の一般項をもとめ、その一般項から極限値を求める方法です。

 

一般項が求められれば、発散する数列なのかどうかもわかります。

 

ただ、一般的に与えられた数列の一般項を簡単な式で表すことは極限を求めることよりも難しいことです。

 

例えば、\( a_{n+1}=\sqrt{a_n+2} \)

の一般項をあえて書くとしたら、ルートの中にルートが幾重にも重なった記述となるでしょう。

 

\( a_{n}=\sqrt{\sqrt {\cdots \sqrt{1+2}\cdots +2}+2} \)

 

この式から極限を調べようとしても、有効な公式もなく、そう簡単にはいきません。

 

ですが、漸化式がわかっている場合は、一般項がわからなくても、

極限を調べることが可能になってきます。

 

 

これから、その方法をつかって、最初に与えられた問題の極限値を求めて行きます。

 

漸化式から極限値を求める

数列が収束することが前提ですが、もし数列\(a_n\)が収束し、その極限が\(α\)であると仮定します。

すると、

\( a_{n+1} \rightarrow α\)

\(\sqrt{a_n+2} \rightarrow \sqrt{α+2}\)

です。

 

厳密には、関数連続性を使ってこれを証明しなければなりませんが、

つまりは、漸化式の

\( a_{n+1}\)、\( a_{n}\)の部分を\( α\)に置き換えればよいわけですね。

 

\(α = \sqrt{α+2}\)

なんと、これは極限値に関する方程式ですから、

この方程式を解けば極限値がわかるのです。

 

この方程式のことを「特性方程式」と呼ぶこともあります。

 

解き方の主要な部分はこれでよいのですが、

これは数列が収束するという前提のもとで考えていることに注目しなければなりません。

 

数列が収束するかどうかは、漸化式から作った方程式をみただけではわかりません。

 

つまり、\(α = \sqrt{α+2}\)は、極限値がある場合の必要条件なのです。

極限値があるとしたら、この方程式を満たしていなければならないということになります。

 

同じことですが、極限値が存在するとしたら、それは特性方程式の解でもある。

と言い換えることもできます。

 

ちなみに、計算は省略しますが、

\(α = \sqrt{α+2}\)は解くことができて、

\(α = 2\)です。

 

数列が収束するかどうかを調べるオーソドックスな方法は、

数列\(a_n -α\)、つまり\(a_n -2\)が0に収束するかどうかを調べる方法です。

 

 

ここでは、その一例を示します。

 

ここでは、その一例を示します。

 

\(|a_{n+1} -2|=|\sqrt{a_n+2}-2|\)

\(\displaystyle =\left|\frac{(\sqrt{a_n+2}-2)(\sqrt{a_n+2}+2)}{\sqrt{a_n+2}+2} \right|\)

\(\displaystyle =\left|\frac{a_n-2}{\sqrt{a_n+2}+2}\right|\)

\(\displaystyle =\left| \frac{1}{\sqrt{a_n+2}+2}\right| |a_n-2|\)

\(\displaystyle <\frac{1}{2}|a_n-2|\) 

↑ ここがミソ! 分母を小さくしていますよ。

 

よって、

\(\displaystyle |a_{n+1} -2|<\frac{1}{2}|a_{n}-2|\)

が得られます。これが求めたい関係式です。

絶対値がついているところもポイントですよ。

この関係式から、

\(\displaystyle |a_{n+1} -2|<\left(\frac{1}{2}\right)^n |a_1-2| \)

これで挟み撃ちが適用できます。

 

\(\displaystyle \{a_{n+1} -2\} \)は、

\(\displaystyle \left(\frac{1}{2}\right)^n |a_1-2| \)

という挟み撃ちにあって、0に収束することがわかります。

つまり

数列\(\displaystyle \{a_{n+1} -2 \} \)の極限は0です。

よって、

数列\(\displaystyle \{a_{n} \}\)の極限値が2であることが証明されました。

 

特性方程式で求めた解がちゃんと極限値であったことがわかったのです。

挟み撃ちを使いやすくするために、特性方程式の解を利用しました。

 

この問題の本当の難所となるポイントは収束するという部分です。

 

\(\displaystyle |a_{n+1} -2|<\frac{1}{2}|a_{n}-2|\)

 

この不等式が本当の肝です。

 

他の漸化式の場合であっても、ある定数\(|k|<1\)を持って

\(\displaystyle |a_{n+1} -α|<k|a_{n}-α|\)

の形を目標に考えれば、

これがヒントになって案外とあっさり解けたりします。

 

不等式の変形は、

目標の式を手がかりにしないと、

相当に手こずります。

 

このあたりの不等式の変形については、

テクニックが多様で一概に説明しきれませんので、

ここでは割愛します。

 

 

ここでは、漸化式から得られる数列が

収束するしないの重要性をもっと追求(考察)してみます。

 

 

 

極限値をもたない漸化式

特性方程式つかえば、

答え(極限値)が求めらることがわかったのだから、

それでいいじゃん!

と思ったあなた、

もったいないことです。

 

テストの問題は、収束するものばかりです。

でないと、極限値を求める問題にならないですからね。

 

しかし、実際には、極限値のない数列が多数なわけです。

ですから、収束しない例もみておきます。

 

 

例1 無限大に発散する例

超単純な例です。

\(\displaystyle a_1=1,a_{n+1}=a_n+1\)

\(a_2,a_3\)を求めれば一般項はすぐにわかりますね。

\(\displaystyle a_n=n\)

です。

この数列は無限大に発散します。

 

ちなみに、特性方程式は

\(\displaystyle α=α+1\)

ですから、解を持たない方程式になっています。

 

 

例2 無限大に発散する例2

\(\displaystyle a_1=1,a_{n+1}=2a_n+1\)

こんどは、特性方程式が解を持つ例をだしました。

実は、この漸化式は一般項をnで表すことができます。

\(\displaystyle a_{n}=2^n-1\)

です。

ですから、この数列は無限大に発散します。

つまり極限値をもちません。

特性方程式が解をもっていても、

極限がない場合もあるのです。

 

ただ、ここでちょっと注意しましょう。

初項が-1の場合を考えて見てください。

すると、この漸化式から得られる数列は、

全部の項が-1となっている数列になります。

つまり、この場合は収束して極限値は-1です。

初項によって、収束したり、しなかったりします。

 

例3 振動する例

\(\displaystyle a_1=1,a_{n+1}=\frac{2}{a_n}\)

シンプルな例です。

\(a_2,a_3\)を求めれば一般項はすぐにわかりますね。

1,2,1,2,…

1と2が交互にでてくる数列を表しています。

振動していますから、極限値はありません。

この漸化式の特性方程式は解があります。

初項が特性方程式の解の場合は、

一定の値(定数)の数列になりますから、収束します。

この例の場合、

\(a_1=\sqrt{2}\)

とすると、

\(\displaystyle a_{n}=\sqrt{2}\)

となる数列を表すことになり、

極限値は

\(\sqrt{2}\)

となります。