実数の濃度が可算でないことを示す対角線論法の流れ

実数を無限小数表示で表すこととし、その無限小数を縦に無限い並べます。

並べたそれぞれの無限小数を対角線上になぞり、対角線上の桁の数をしらべ、その桁の数と違った数を持つ無限小数を作ります。カントールの対角線論法で作った実数です。

背理法というのが、論理学的に不利な論法ですが、広く知れ渡っていて有名なので、ここではその説明は割愛します。自然数より大きな無限の存在を示すための手法です。

その証明の流れは

  1. (Step1)実数(無限小数で表せる実数)を並べることができたとする(仮定する)
  2. (Step2)並べた実数から、対角線上に数をとりあげ、ある実数を作る。
  3. (Step3)その実数は並べたどの実数と異なる実数であることを示す。
  4. (Step4)(Step3)が(Step1)に反していることを示す。
  5. (Step5)(Step1)の仮定が誤っていたためであることを示す。
  6. (Step6)(Step1)の否定が証明されたとする(つまり実数は並べることができない)

このような流れです。

対角線論法は、背理法を正しいとする前提で使われています。対角線論法によって、実数の濃度は自然数の濃度より真に大きいことが示されます。実数の濃度に関しては、背理法を使わない証明もあって可算でないとされています。

ですから、背理法を使っているので対角線論法がおかしいという話はここでは置いておきます。

ここで(Step2)と(Step3)について検討してみます。

 

対角線上から実数を作れるのか?

これは、特に問題ないと思います。無限小数であるためには、任意の自然数nに対して小数第n位の数が確定していればよいわけで、それはn番目に並べた実数の小数第n位から決定できます。

①実数を並べることができているし、②実数は任意の桁においてある自然数(10進数で考えた場合は0~9)が決まっているので、その自然数より小数第n位の数が決定できます。

このようにして決めた実数をここでは、対角線実数と呼ぶことにします。

対角線実数を作る方法ですが、ここでは、n番目の実数の小数第n位が偶数なら1,奇数なら0をもって対角線実数を作ることにします。

 

対角線実数は並べたどの実数とも異なるのか?

異なることを示すことができます。

任意の自然数nに対して、並べたn番目の実数と、対角線実数を比較すると、すくなくとも小数第n位の桁の実数はその作り方から異なります。

したがって、「任意の自然数nに対して、並べたn番目の実数と対角線実数は異なる実数である」ことが示されました。

 

これで終わってよいのか?

対角線論法を改めて検証しましたが、特に問題になるところはありませんでした。あるとしたら、背理法を使っているところでしょうか。

これで論理をおわらせてよいのでしょうか?

ここで一つ疑問があります。

ここで扱っているのは有限なものではありません。無限なものが対象です。無限は魔物です。常識が通じないというか、有限の世界の常識が無限の世界で通じる保証はどこにもありません。

いままでのは前座です。フィルターでした。ここからがマジです。ここまで、なんなく読み進んでこれた実力者であれば、実数の定義はよくわかっているものと考えます。

 

限りなく近づく二つの実数は同じとみなされる

 

限りなく近づく二つの実数は同じとみなされる。これが実数です。0.999…=1の議論で散々示されているではありませんか。無限小数では近似表現しかできない。無限小数はある実数を表しているがその各桁を無限に書きあわらすことができない。

ということはですよ、対角線実数に限りなく近い実数はいくらでもあるはずです。なぜなら、自然数は無限にあるのですから。たしかに、対角線実数にぴったり一致する無限小数の実数はないかもしれません。しかし、0.999…=1の例があるように、無限い近い実数で表現が別々のものがあるじゃないですか。

9は特別?そうかもしれません。これはたまたま10進数で表したからです。2進数で表した0.111…=1の式は10進数で表すと、0.999…の形をしていません。でも1に近づくのです。

逆に、任意の自然数nに対して、小数第n位まで対角線実数と完全に一致する実数がない事をどうして言えますか?並べた実数のなかかから、対角線実数に収束する実数の列が選べないといえるのでしょうか?

つまり、限りなく対角線実数に近い実数は並べられた実数の部分列として存在している可能性があります。

 

まとめ

  1. 無限小数が表している実数はある収束した実数のことである(有限桁で切り取った瞬間それは収束した実数とは別の実数になる)。
  2. 異なる無限小数が同じ実数を表すことがありえる。
  3. 対角線実数に限りなく近い実数があるのであれば、それは対角線実数に収束する実数の存在を示唆している。
  4. 無限にならぶ数列から、対角線実数にいくらでも近づく実数の部分列が存在しているのであれば、対角線実数がどの実数とも異なっていることを示したとはいえない。

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