実数の定義は意外に難しいものですが、デデキント切断という考えで定義できます。
具体的には、有理数のデデキント切断から、実数を構成することができます。
デデキント切断(デデキントカット(dedekind cut))とは
定義
全順序集合 S を二つの部分集合AとBにわける。
二つの部分集合の組(A,B)が、
- S = A ∪ B
- A ≠ ∅
- B ≠ ∅
- a ∈ A, b ∈ B ⇒ a < b
をすべて満たしているとき、組(A,B)をデデキント切断といいます。
デデキント切断の性質
組(A,B)をデデキント切断とするとき、集合AとBは次の性質を持ちます。
- A ∩ B = ∅ (∵x ∈ A, x ∈ B とすると x < x となってしまう)
- 切断で考えられるのは下記の4パターン
- Aに最大値がある & Bに最小値がある
- Aに最大値がある & Bに最小値がない
- Aに最大値がない & Bに最小値がある
- Aに最大値がない & Bに最小値がない
有理数を切断して実数を構築する
全順序集合Sとして有理数を考えます。これは全順序集合ですから、デデキントの切断が可能です。
有理数のデデキント切断を使って、実数を構築することができます。
このあたりの説明は探せばいくらでも容易にみつかるので、ここでは、その説明を割愛します。
ただ、表面だけの理解で終わってしまわないように、実数を構築した時のポイントをいくつか示しておきます。
なんのためにかと言うと、これらのポイントを良く観察することで、新しく数を作る時のノウハウが生まれるからです。
デデキント切断の内容を少し変更することで新しい数の体系を作ることのヒントが得られます。
内側から考えなければならない
実数というのがあまりにも身近に理解されるため、有理数を実数の部分集合として考えがちです。
それは間違いではないのですが、実数を作る段階においては、実数は未知の数であると考えておく必要があります。
実数をあらかじめ数直線でイメージし、数直線上に√2に該当する点があることを前提として考たうえで、√2をもって数直線を切断する考え方は外側(最初から有理数はもりろん実数を含んでいるとみなした数直線)から有理数をみています。
ここでは、有理数を使って実数を構築するわけですから、数として使えるのは有理数だけです。
「√2は有理数でないから」「数直線は、無理数で穴だらけだから」などと考えるのは、すでに無理数の存在を認めたうえでの命題です。
A={√2より小さい有理数の集合}
B={√2より大きい有理数の集合}
というデデキント切断を考える場合、
この切断は√2を表すのですが、上の集合AやBの定義に√2が使われています。
√2を定義するために、√2を使った集合を使うことは外側から考えた結果です。
実際には、有理数を2つに切断したときに、上記の集合A,Bのパターンに切断することが考えられ、その切断を√2と定義しています。
整数をデデキント切断するとどうなるか も参照してください。
演算も定義する
数の存在だけを示すのでは不十分です。構築した数に演算が定義できるかどうかまで見極める必要があります。つまり、二つのデデキント切断(A,B)と(C,D)に対して、四則演算が定義できないのであれば、実数としての用を満たしません。
比較について
もちろん、新しく構築した数同士が比較できるかどうかの見極めも必要です。ただ、デデキント切断の場合は、全順序集合を相手にしているので明らかに示せることが多く、この部分に関して神経質になってもあまり得るものはありません。
新しく数を作る
有理数をAとBにデデキント切断すると、
- Aに最大値がある & Bに最小値がない
- Aに最大値がない & Bに最小値がある
- Aに最大値がない & Bに最小値がない
の3つの状態しかできません。
こんどは、実数をAとBデデキント切断すると、
- Aに最大値がある & Bに最小値がない
- Aに最大値がない & Bに最小値がある
の2つの状態しかできません。
3番目の状態がなくなることが、実数の連続性と呼ばれる性質です。
ここまでは、まったくツッコミどころのない完成された理論となっています。
なぜこんな枯れた論理を持ち出すのか?
デデキント切断は実に直感的で、すぐに納得するような発想です(実は実数に関わっているので結構奥深い)。シンプルでありながら抜け目のない定義です。ですが、実数をさらに拡張したデデキント切断することは可能です。つまり、Aの最大値、Bの最小値のない実数の切断を考えることは可能。この前提で数を構築するために、このページが作られています。
実数を切断するので、いわゆる超実数の定義へと進むわけですが、切断で構築した超実数がどこまで数として耐えうるのかをこのサイトで検証していきます。
有理数を切断して実数を作ったように、実数を切断して超実数を作るわけですが、実はそう簡単に話はうまく進みません。
演算や比較ができるようにするために、一工夫必要になるからです。
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参考サイト
- デデキント切断のポイントをわかりやすく説明する
- デデキント切断(Wikipedia)
- 実数の構成(清野和彦) (リンク切れhttps://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/2007/koji07-01.pdf)
- 実数の定義(その1) – Dedekind切断(土屋卓也)
「3番目の状態がなくなることが、実数の連続性と呼ばれる性質」とありますが、無理数ならば3番目の状態はあり得ると思います。
普通にいわれる無理数は実数ですので、3番目の状態はあり得ないです。
なぜなら、(有理数ではなく)「実数」をAとBにデデキントカットするということは、
A∪Bは実数全体になっているわけですから、どんな無理数をもってきても実数である以上は
AかBのどちらかに属していなければなりません。
Aに属しているならば、それはAの最大値です。
Bに属しているならば、それはBの最小値です。
ただし、いわゆる超実数といった数を含めて拡張した意味での無理数を考えているのなら話は別です。
超実数には実数ではないものがあるので、AにもBにも属さいない場合がありえます。
説明がわかりにくくて申し訳ございません。